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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1300号 判決 1973年5月10日

控訴人(告知人)

宝紙業株式会社

右訴訟代理人

鈴木義広

被控訴人

金東一

右訴訟代理人

秋山昭八

外一名

(被告知人)

笠井麗資

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、訴外株式会社東京オートスライド(以下単に訴外会社という)が昭和四四年六月一八日、控訴人との間で原判決別紙物件目録記載の貸室(以下単に本件貸室という)について賃貸借契約を締結し、訴外会社が控訴人に対し右契約に基づき保証金一二〇万円を預託したこと、右保証金は右賃貸借契約が解除されたときないしは訴外会社が本件貸室を明渡したときは直ちに返還する約定であつたことは当事者間に争いがない。

二、<証拠>によれば、訴外会社は昭和四五年八月二六日、前記保証金の返還を請求する権利(以下本件債権という)を訴外笠井に譲渡し、同日附内容証明郵便でその旨債務者たる控訴人に通知したことが認められる。ところで、控訴人は昭和四六年五月一一日の原審第二回口頭弁論期日において、被控訴人主張の、訴外会社、控訴人間における本件債権につき譲渡禁止の特約があつたとの事実を自白したが、昭和四六年一一月二〇日の原審第七回口頭弁論期日において、右自白は真実に反し且つ錯誤に基づくものであるとしてこれを撤回し、右譲渡禁止の特約があつたことを否認するに至り、被控訴人は右自白の撤回に異議を述べた。そして、右自白が真実に反するものであることは控訴人の全立証によつてもこれを認めることはできないから右自白の撤回は許されず、従つて本件債権につき譲渡禁止の特約があつたことも当事者間に争いがないものというべきである。

三、控訴人は、訴外笠井は右債権譲受の当時その譲渡禁止の特約が存在することを知らなかつた旨主張するが、当裁判所も原審と同様控訴人の右主張は理由がなく、当時訴外笠井は右特約の存在を知つていたものと推認すべきものと判断するものであるからこの点に関する原審の説明(原判決七枚目表九行目から八枚目表一行目まで)を引用する。従つて控訴人の訴外笠井は譲渡禁止の特約の存在を知らなかつたことを前提とする主張も理由がない。

四、次に、控訴人は、訴外笠井が訴外会社から本件債権を譲受けた際右特約の存在を知つていたとしても、昭和四五年八月下旬控訴人が訴外笠井に対し本件債権の譲受を承認したことにより訴外会社と訴外笠井間の本件債権譲渡は有効となつたと主張するに対し、被控訴人は右承認の事実を否認し、仮りに、承認があつたとしても対抗要件を具備しないとしてこれを争うのでこの点につき判断する。

<証拠>によると、訴外会社は昭和四五年一一月二七日頃、控訴人の代理人である新津弁護士に対し、訴外会社は控訴人に対し本件貸室を昭和四五年一二月二五日までに明渡す旨、右明渡の上は訴外会社から控訴人に預託してある保証金を精算してもらいたい旨を記載し、同日附の公証人の認証ある解約申入書(乙第一四号証)を持参交付したこと、右解約申入書には当時、訴外会社が本件貸室を明渡したときは保証金は訴外笠井に支払う旨控訴人の承諾書が添付されていたことが認められ、他に右認定を動かすに足る証拠はない。右事実によれば、控訴人は昭和四五年一一月二七日頃、訴外笠井の本件債権譲受を承認したものと認めるのが相当である。<証拠判断・省略>

そうであるとすれば、訴外会社の控訴人に対する保証金返還債権については前段認定のとおり譲渡禁止の特約があり且つ右債権の譲受人である訴外笠井はその譲渡禁止の特約を債権譲受当時知つていたのであるが、控訴人の前記債権譲渡承認によつて訴外会社と訴外笠井間の本件債権の譲渡はその譲渡の日である昭和四五年八月二六日に遡及してその効力を生じたものといえる。そして、<証拠>によると前記債権譲渡の通知は昭和四五年八月二六日の確定日附をもつてなされていることが認められるから、控訴人としてはその譲渡承認によつて有効となつた本件債権の譲渡の事実を第三者である被控訴人に対してもこれを対抗しうるものであり、このような場合承認のあつた前示昭和四五年一一月二七日以後改めてその事実を確定日附ある証書をもつて証明する必要はないものと解するのが相当である(昭和四三年八月二日最高裁判決・民集二二巻八号一五五八頁参照)。控訴人のこの点に関する主張(再々抗弁)は理由がある。従つて、昭和四六年一月二〇日本件債権に対する差押命令および右債権を被控訴人に転付する旨の転付命令が発せられ、その決定正本が同月二二日控訴人に送達されたことは当事者間に争いのないところであるが、右差押および転付命令が発せられた当時被転付債権たる本件債権はすでに適法に訴外笠井に譲渡され、訴外会社は本件債権の債権者ではなかつたのであるから被控訴人は右転付命令により本件債権を取得するに由ないものというべく、結局被控訴人は本件債権の債権者ではなく、控訴人は被控訴人に対しその支払義務がないことは明らかである。《以下、省略》

(菅野啓蔵 渡辺忠之 小池二八)

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